転生したのに0レベル
〜チートがもらえなかったので、のんびり暮らします〜


166 暑くなるとパンケーキを作るのが大変だよね



 ルディーンの父、ハンスがイーノックカウを訪れている頃。

「ルディーンのおかげで台所がちょっと涼しくなったけど、それでもこのまま夏になったらこの作業が大変になるわねぇ」

 僕とお母さんは、ほぼ日課のようになっている、村のみんなが食べに来るパンケーキ作りをしてたんだ。

「ねぇ、ルディーン。魔道コンロ、作らない?」

「う〜ん。作ってもいいけど、パンケーキを焼くのにはあんまり役に立たないと思うよ」

 僕たちは今、火がついた薪を崩して遠火にした状態のコンロの上に大きな鉄板を置いてパンケーキを焼いてるんだ。

 だから一度に何枚か焼く事ができてるんだけど、もし魔道コンロでパンケーキを焼こうと思ったら一度に一枚ずつしか焼けないんだよね。

「そうよねぇ。大きな魔石を使った値段の高い魔道コンロは高火力が出るだけだし、パンケーキを作るのなら結局弱火にしないといけないから、こんな大きな鉄板は使えないものねぇ」

「うん。それに魔道コンロを何個か並べればパンケーキを一度に何枚か焼けるくらい大きな鉄板を暖められるだろうけど、でも今度は魔道リキッドがいっぱいいるもん。そしたらお金がいっぱい掛かるから、みんな今みたいに食べられなくなっちゃうよ」

 今僕たちがやってるみたいに薪で焼くのなら火を起した時に一度しっかりと鉄板を熱して、それからその薪を崩して広げてやれば大きな鉄板でも全体が熱くなっていっぱい焼けるけど、これと同じ事をやろうと思ったら、それこそ魔道コンロが4つ以上いると思うんだ。

 確かに魔道コンロなら薪よりも安く火が使えるようになるけどそれは一つだけを使った時の話だから、4つも一度に使ったら薪の方が安いのは当たり前だよね。

「そうね。鉄板を熱する為にどうしても薪を広げなきゃいけないから熱くて大変だけど、まぁ仕方が無いわね」

 そうなんだよなぁ。

 普通に台所で煮炊きするかまどと違って、今パンケーキを作ってるコンロは火を広げてるからどうしても熱いんだよね。

 それでも今はこの間作った魔道クーラーがあるおかげで結構涼しかったりするんだ。

 だけどそれだって、もっと暑くなったら凄く大変になるかもしれない。

 まぁ、凄く暑くなったら焼かなくても良くなるかもしれないけどね。

「もっと暑くなったらみんなもパンケーキじゃなくてかき氷を食べるようになると思うから、暑いのは今だけだよ。きっと」

「そうねぇ。でも、もっと簡単に大きな鉄板を暖められたらいいのに」

 暑い時は冷たいものが食べたくなるよって思った僕がお母さんにそう言ったんだけど、そしたらこんな答えが帰って来たんだ。

 でもそっか、そう言えば鉄板を熱くすればいいだけで、別に火を使う必要は無いんだよね。

「お母さん、頭いい! そっか、暖かくなる鉄板を作ればいいんだよね」

「あらルディーン、そんな事ができるの?」

 僕が言い出した事に、びっくりした顔をするお母さん。

 でもさぁ、氷の魔石で銅の板を凍らせることができるんだから火の魔石で鉄板を熱くする事もできると思うんだよね。


 と言う訳でパンケーキを村の人たちのために焼くお手伝いが終わった後、僕はいつも使ってる作業場へ移動したんだ。

「要は火の魔石が出す熱の魔力を火にしないで鉄板に伝えればいいってことだよね?」

 魔道コンロや魔道オーブンの場合、火の魔石の魔力を指定した場所まで魔道回路で引っ張っていって、そこで火が出るようにしてるんだ。

 まぁ魔道コンロの場合はもうちょっと複雑なんだけど、それは横に置いといて。

 今回僕がやりたいのは、単純に言うとその火の魔石の魔力をそのまま鉄板全体に広げようってことなんだ。

「えっと、ここに書いてある通りなら属性魔石の魔力は、その属性の力に変換できるはずだよね」

 前に買ってもらった魔道具の本によると、属性魔石は魔力そのものにその属性の力があるから、火とか水みたいな物に変換しなくても使えるみたいなんだ。

 でもまぁそれは当たり前か。

 じゃなかったら大きな氷の魔石で冷蔵庫が作れるはず無いもん。

 氷の魔石が持つ冷たい魔力をそのまま使えるからこそ、冷凍庫じゃなく冷蔵庫が作れるんだからね。

 ただこの本には火の魔力をそのまま他のものに使った例が載って無かったから、僕は別の属性魔石の使い方から想像するしかなかったんだ。

「そっか、冷蔵庫って本当はこうやって作るんだね」

 僕の場合、前世の記憶の中にあった昔の冷蔵庫から簡易魔道冷蔵庫を作ったけど、本来は魔道リキッドで描いた回路図を発動体にして広範囲に冷機を広げるような作り方をするんだって。

 ただ、それだと魔石に近いところが一番冷気が強くて遠くなるほど弱くなるから、一番遠い所の冷気が丁度よくなるくらいの魔石を使って、他は抵抗をかけて全体をおんなじ温度になるようにしてるんだってさ。

 なら鉄板を暖めるのなら、それとおんなじ事をやればいいんだけど。

「焼肉と違って凄く熱くならなくてもいいんだから、薄い鉄板にちっちゃな魔石を幾つか使って左右交互に何本か熱が出る線を引けばいいかな?」

 焼肉とかだとお肉を乗っけた時に鉄板が冷たくならないようにある程度熱い鉄板を使わないといけないけど、パンケーキの場合はそれほど高い温度が必要ないから生地を乗っけてちょっとの間冷えちゃってもすぐにその温度まで戻ればいいんだから薄い鉄板でもいいと思うんだよね。

 それにそんなに高い温度が必要ないなら、大きな魔石を一個使って最初と最後の温度をあわせるより、ちっちゃな魔石を何個か使ってすぐその温度に戻るようにした方が使いやすいと思うんだ。

「あっ、これなら一角ウサギの魔石でも行けそう」

 で、実際に実験してみた所、どうやら一角ウサギの魔石程度でも薄い鉄板なら十分暖かくなるってことが解ったんだ。

 良かった。これならちょっとの魔力で動きそうだぞ。

 あっ、でも一応魔道リキッドでも動かせるようにしとかなきゃいけないね。

 だって、魔力でしか動かなかったらお母さんが一人のとき、使えなくてこまっちゃうもんね。


 ところがここで一つ問題が。

 実験ではうまく行ったけど、実際の鉄板くらいの大きさだと左右から回路図の発動体を延ばしたら一角ウサギの魔石じゃ淵の方がうまく暖まらない事が解ったんだ。

 まぁ一度に6枚くらいしか焼けないものならこれでもいいんだけど、みんな一度に3枚とか4枚とか重ねて食べるもんだからやっぱり10枚は焼けるようにしたいんだよなぁ。

 と言う訳で、左右じゃなく縦に何本か発動体の回路図をつける事に。

 ただこれだと魔道リキッドの入れ物をつけるのが面倒になるから、魔石を両端につけて交互に暖めるんじゃなくて、全部手前につけて暖める事にしたんだ。

 これだとどうしても手前の方が熱くなるけど、一角ウサギの魔石程度ならそこまで魔力が高くないからきっと大丈夫。

 こうしてスイッチを入れたら熱くなる鉄板を作った後、持ち運べるように取っ手や木のテーブルに乗っけても焦げちゃわないように台とかを作ってパンケーキ用ホットプレートが完成した。


 で、実際にそれを使ってみたんだけど……。

「ルディーン、これいいわね。特に子手前の方が奥より温度が高いのがいいわ」

 僕は予想もしてなかったんだけど、手前の法が温度が高いおかげでそっちから焼き始めると冷たい生地を乗っけてもすぐに熱くなるんだよね。

 で、それをひっくり返す時に奥にやると、今度はもう生地が暖かいからそんなに鉄板の温度も下がらないし、それに手前より温度が低いからじっくり火が通ってふっくらと焼ける事が解ったんだ。

「それにこれだと火を使ってないから台所だけじゃなく、どこでも焼けるのがいいわね。それに鉄板が薄くて軽いから持ち運びやすいのもいいわ」

 お母さんが言うには、これなら近所のおばさんたちとの会合の場にも持っていけるし、そしたらパンケーキを妬きながらお喋りができるって大絶賛。

 おまけに今までの魔道具と違ってみんなが欲しがる物じゃないから、これ一個あればもう他に作らなくても良かったんだよね。

「でも、もうちょっと温度が高くできたら嬉しかったんだけど」

 ただパンケーキくらいしか焼けないのは、お母さんにとってはちょっと不満だったみたい。

 だからってもっと温度が上がるのは作んないよ。

 だってもしそんなのを作っちゃったら、またみんなが欲しがっていっぱい作らなくちゃいけなくなるもん。

 お父さんがいない時にそんな事したら、また怒られちゃうから、絶対作んないからね! 



 ルディーン君が出ない回が続いたので、今回は閑話的なエピソードを入れておきました。

 まぁ次回からはまたお父さんたちの話し合いになるんですけど。

 何せハンスがいないのは二日間だけですから。

 あと、ルディーン君だって成長しています。

 だからいっぱい魔道具を作らされないように今回は考えました!

 ただ、今回の魔道具作りで知った知識が、ゲフンゲフン。

 頑張れハンスお父さん! 負けるなハンスお父さん! とりあえず無自覚の息子を持ったんだからあきらめろハンスお父さん(笑)


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